スウェーデン社会研究所の第143回スウェーデン研究講座「スウェーデンと日本の国民性~国際比較データによる分析」を聴講しました。
これは、明治大学国際日本学部の鈴木賢志先生のゼミ生の卒業研究の発表シリーズ2回目です。
今年の共通テーマは幸せでした。
①熱田雄大 『スウェーデン人の国民性と幸福度』
スウェーデン人の気ままさ(好きなことをする、出来る)が幸福度の前提である、との仮説でした。そしてこの仮説をHofstede, ISSP, World Values Survey (WVS)などのデータで検証されていました。
以下が私のコメントや質問です。
・気ままさを具体的には自由、個人主義、開放社会、などのキーワードと関連づけられていました。しかし、言うまでもなく、スウェーデンは依然世界で最たる福祉国家の一つです。福祉国家の前提条件は、連帯感、団体主義、などです。つまり、スウェーデンは個人の自由と連帯感の両方を兼ね備えている社会ではないでしょうか?
・30数年前のホーフテッドの調査は歴史的価値があります。ただ、社会は急速に変化しています。私は授業などで学生にホーフテッドの調査関連のアンケートにも答えてもらっていますが、日本は確実に30年前の男性的社会から女性的社会に価値観がシフトしているようです。
②井上明彦 『移民に対する意識と国民性の関連』
人の良さ、人を信頼する国民性が移民を受容する寛容さにつながっている、という仮説でした。
・「移民が犯罪率を上げていると思うか」
・土地に対する気ままさ(一カ所に住むことにこだわらない)
など興味深いデータの検証があり、土地に対する気ままさ、他人への信頼と人の良さ、ものごとの主体的な理解、他への寛容さが移民を受け入れる寛容さを形成している、と結論づけられました。
私のコメントは、移民に対する寛容さは、日本と比較すれば、そのとおりだと思います。ただ、グローバルに比較すると、カナダ、オーストラリア、欧州ではイギリスなどがはるかにdiversityが進んでいる、とスウェーデン自身が自覚しています。プレゼンでも少し触れておられましたが、世界の移民受容先進国との比較研究に期待します。
③本村健登 『Happiness スウェーデンと日本の「チャレンジするチャンス」』
日本人のAさんとスウェーデン人のBさんのあるケースを比較し、日本人が決まったパターンの生き方から離れにくい一方、スウェーデン人は自由なチャレンジをするチャンスがあると、きわめて分かりやすい例示。
そして仕事、平等、教育、政治、結婚の5つの視点からスウェーデン人と日本人の「チャレンジするチャンス」をデータで検証されました。
以下は私のコメントです。
・チャレンジ出来るのは、1)チャレンジしたいことがある、2)失敗が許され、セカンドチャンスがある、ことなどが前提ではないでしょうか。
・スウェーデンでは確かにこの両方の前提があるからこそ、たとえば、〈夢の職業〉の調査でも起業家が上位を占めるのでしょう。
・チャレンジ精神そのものについて、日本人の若者がスウェーデンの若者に負けているとは考えたくないですね。チャレンジしたいことはあっても、まわり(たとえば親、先生、色々な社会的規制)の圧力によりチャレンジ精神が弱化させられている、という仮説も検証してみてほしいものです。
④三枚橋彩花 『色彩心理学でみるスウェーデンの国民性』
"A Cross-Cultural Study of the Affective Meanings of Color" (F Adams & C Osgood)によれば、スウェーデン人が一番好きな色は黄色だそうです。(日本人は白)
そしてスウェーデンが好きな黄色の意味する国民性として以下が検証されました。
ー創造性、アイデア、分析、独創性
ー精神的な冒険好き、好奇心
ー旅行好き、移住にも抵抗がない
ー自己実現、向上心、自己中心的
ー自由きまま、多様性
私は色弱ですが、色彩心理学者が色弱、色盲者をどのように扱っているか,興味ありますね。
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四人に総括的には以下のようなご質問をさせて頂きました。
・スウェーデンの中央統計局(Statistics Sweden)の10代の若者の生活動向調査(ULF)によればスウェーデンの10-18歳の実に 99%が、「将来よい生活ができると思う」と答えています。
この日本との違いはどこから来ているとお考えですか。
・二次情報の分析はすばらしかったのですが、一次情報をほとんど使われない理由は何ですか?
・スウェーデン研究を今後のキャリアでどのように活かしたい、と考えておられますか。
・幸せになるためのアクションプランを聞かせて下さい。
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2012年11月9日のスウェーデン社会研究所の第139回スウェーデン研究講座@スウェーデン大使館もそうでしたが、若者にこのようなチャンスを与える機会は大賛成ですね。
お若い鈴木先生とゼミ生の今後の一層のご活躍に期待しています。