今日はお茶ノ水女子大附属中学校の年一回の教育研究協議会。
テーマは ”協働的な課題解決を支える思考・判断・表現の力を育てる授業づくり〜新教科「コミュニケーション・デザイン科」の開発〜”
2014年から取り組んでこられた新教科「コミュニケーション・デザイン科」(CD科)の実践発表。
二年生の〈コミュニケーション・デザイン基礎〉”批判的に考える 〜矛盾に気づこう〜”と
一年生の〈コミュニケーション・デザイン基礎〉”言葉の壁をビョーンと越えてつながろう! 〜グローバル環境・ランゲージ大作戦〜” (ビョーンはbeyond the language wallから取られています。)
を参観しました。
写真は”言葉の壁をビョーンと越えてつながろう! 〜グローバル環境・ランゲージ大作戦〜” (担当:西平先生)のものです。
お茶中の1年生は11月にグローバルキャンプという一泊の研修合宿があり、外国人に対して附属中について”分かりやすい”日本語で説明するプロジェクトが含まれています。
今日はその準備の一環として、〈お年玉〉〈大根おろし〉〈お中元お歳暮〉〈お見合い〉〈かまちょ〉〈リア充〉をグループで議論して1人5秒x6人=30秒で分かりやすくプレゼンする、という課題でした。
生徒さんに聞いたら、CD(コミュニケーション・デザイン科)の授業はとても面白い、との答えでした。
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コミュニケーション・デザイン科の目標は以下のようにうたわれています。(資料 p.4)
より良い社会の実現に向けた課題発見・解決・研究のために、様々なツールを活用して思考・発想し、他者と対話・協働しながら、思いや考えなどを伝達・発信するための統合メディア表現を工夫して、効果的なコミュニケーションを創出する能力と態度を育てる。
具体的にはCD科は以下の3つの領域から編成されています。
A 論理・発想
B 対話・協働
C 伝達・発信
実際の指導にあたっては以下の三つの指導法を活用されています。
・CD基礎における取り立て的なワークショップ学習による基礎指導
・CD活用におけるテーマ探求学習、プロジェクト型学習等による活用指導
・教科及び自主研究と連携した基礎および活用指導
2017年3月に告示された新学習指導要領では下のように教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成が要求されています。
2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1) 各学校においては,生徒の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能
力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質
・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科
等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
(2) 各学校においては,生徒や学校,地域の実態及び生徒の発達の段階を考
慮し,豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成すること
に向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を,教科等横断
的な視点で育成していくことができるよう,各学校の特色を生かした教育
課程の編成を図るものとする。
”CD科はこの具体化である”、と曽我部研究推進委員長はお話になっていました。
CDの授業はお茶ノ水女子大附属中の”教員全員が数多く開発し実践した。” (資料 p. 2) とあります。 他の科目と同時にCD科の授業も担当されるようです。全ての科目教員全員がCD科の開発に参加というのは本当にすごいです。
CD科の目的、領域、指導法は科目を超えて大切なものです。しかし、先生方はそれぞれの担当科目へのこだわりがあり、コラボは容易ではないのが私の経験でもあります。
素晴らしい取り組みですが、同時に全教員のコンセンサスを取り付け、同じ方向に進むために膨大な時間と議論を費やされているのでしょう。そのような経緯についても伺いたいものです。
資料によれば、教師個人対象にアンケート調査を11月に実施されるとのこと。その結果にも興味があります。
CD科の開発は2014年度から始まりました。すでにお茶中を卒業した高校生を対象にCD科の効果についてのアンケート調査を実施されました。
質問は”お茶中で学んだCD科を、高校生活の様々な場面(特に仲間と協働して何か課題解決をして行く場面)で、あなたがどのように活用しているのかについて、以下の質問にお答えください”というもの (pp. 44-51)
質問4 〈高校生活で役立っていると感じること〉
・プロジェクトを進める方法や、プレゼンを学んだ経験が台湾フォーラムに参加した時に役立った。
・一つの物事を様々な角度からみる力はどんな問題にも役立つ。
・CD科であまり交流のない人と話して、人に説明したり、協調性が生まれた。
・生徒会で話し合いをする時のまとめの方法や相手の意見をさらに活かして重要な部分を抜き出せるようになった。
質問 5 〈日常生活でCD科の経験が自分の力になっていること、後輩に引き継ぎたいこと〉
・実行委員会など、自分たちで全てを行わなければいけない時。
・課題を見つけ、そこに向かう力。物事を考えるのが好きになった。
・大きな課題の中で、興味のあることを見つけ、計画して実行する流れを経験できた。
・自分の頭の中で考えていることを図などを用いて可視化するようになった。
・”協働”の大切さを理解できた。
・様々な要素を考慮して状況判断を段階的に行うことができるようになった。
・初対面の人とのコミュニケーションの取り方が上手くなった。
・話題を見つけ出そうとする力。
・仲間と協力してプロジェクトを終えた達成感は大きかった。
附属高校ではお茶中卒業生とその他の生徒が、ほぼ半々。そこで、附属高校の教員を対象に、お茶中生と、他校から進学してきた生徒との違いについてもアンケート調査を実施されています。(資料 pp.51-54)この結果によれば、お茶中卒業生には以下のような特色が見られるとのことです。
・プレゼン能力が高い。
・発表への積極性がある(内容は別として)
・発表や自分で課題を見つける、感想を書く等が得意な生徒が多い。
・入学早々の学年合宿の報告や夏休み課題レポートでグループを主導していた。
・グループ学習や発表学習に積極的に取り組む生徒が多い。
・行事などでリーダーシップをとり、積極的に関わっている生徒に附中生が多い。
このように工夫された参加型授業が楽しく、有意義なのは当然ですね。附属高生や先生のアンケート結果からもそれが実証されています。このような授業がどんどん拡散することを心より祈念します。
以下は二、三コメントです。
・実社会とのコミュニケーションについて。
3年生では”広く社会の問題について取り上げ、外部の人とのコミュニケーションをデザインする経験を通して、提案や交渉による課題解決を経験”とあります。
実際に〈C 伝達・発信〉では、プロに学んでポスターを駅に掲出したり、〈CD活用〉では被災地米を活用するためにお茶中の学校給食に使ってもらったりしたそうです。このように自分たちのアイデアや企画が外部、実社会で”聞いてもらえ”可視化”されると生徒さんのCDにも力が入ることは間違いありません。
EU議会が発注し、28カ国28.000人から回答を得た調査の質問の一つに、”私の国では私の発言は価値がある”に同意するか、しないか、というのがあります。
28加盟国中で一番”同意する”という国民の比率が高かったのはスウェーデン(95%)です。
スウェーデンでは”参加型民主主義”が学校教育でも強調され実践されています。例えば南部ヘルシングボリのプレスクールでは子どもたちの公園についての意見やアイデアが実際に活かされています。
日本でももっともっと子どもの意見を本気に聞き、実際に活かしていく努力が必要でしょう。
・親の意見
CD科についての保護者の見解に興味があります。私が現役時代、全国の東海大の付属校園で”知的財産教育”と称し、知的財産を生み出す創造性と知的財産を活用する起業家精神教育の実践研究を行っていました。その目指すところはお茶中のCD科とも共通する部分が多いです。
東海大の”知的財産教育”が遭遇した当時の問題点の一つは、保護者の理解が十分に得られなかったことです。親としては”そんな訳の分からない授業よりも大学入試に役立つような受験勉強をさせて欲しい”との声が残念ながら多かったのです。 参考資料:「東海大学知的財産教育の実践事例−フィンランドに学ぶ実践−」東海大学高等教育研究(北海道キャンパス)第3号, 2010
2020年度からセンター試験に代わり、〈大学入試共通テスト〉が実施されます。変わる大学入試は保護者のCD科への意識、評価を変えているのでしょうか。
CD科の効果についてはお茶中は10月中旬に保護者にアンケート調査を実施されるとのこと。結果に大いに興味があります。
・生徒の評価
CD科ではもちろん生徒を評価すると推測します。
例えばプレゼンなどの表現能力の評価は比較的容易かもしれません。
しかし、このような授業で大切な資質は、批判的思考、リーダーシップ、実践力、コミュニケーション能力、等でしょう。このような資質をどのように評価されるかに関心があります。